2011年03月16日

東海道中膝栗毛 赤坂並木の段


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東海道中膝栗毛 赤坂並木の段
作:十返舎一九
写真:東京奥多摩の伝統行事「川野の車人形」より
文章:八王子薩摩派説経浄瑠璃床本より


3月5日、東京奥多摩の民俗芸能「川野の車人形」を見物してきました。公演の大喜利は、車人形保存会による、十返舎一九の滑稽本「東海道中膝栗毛 赤坂並木の段」。

「川野の車人形」とは流派が違いますが、東京八王子に伝わる薩摩派説経節の人形浄瑠璃で、同じ演目「東海道中膝栗毛 赤坂並木の段」の説経本がありました(八王子市郷土資料館収蔵。床本:平成13年、三代目薩摩都太夫)。

川野の車人形写真と、この説経本を合わせて、写真紙芝居にしてみました。

東海道中膝栗毛 赤坂並木の段(1)


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いでやこの、春の景色も麗らかに
往さ来るさの賓人(まれびと)も
袖ぶっぱいでおもしろや

これは関の東に住まいなす
喜太八・弥次郎兵の両人
さてもこの度都を一見せばやと
思い立ちて候
殊更今日も早や日暮れて
道を急ぎ候ほどに
宿を取らばやと存知候東路を

いつしか後に三河路や
あたふた川も打ち過ぎて
歩むに慣れぬ旅疲れ
物岩穴の観世音
御堂の陰もほの暗き
御油の宿をも出はなれて
並木原にぞ着きにけり
喜太八、かたへに荷を下ろし

喜「ああ、やれやれ
くたびれた、くたびれた。」

あの弥次さんは、なにしてぞ。

喜「早くくればよいになあ。
後の茶店で聞けば
この松原には悪い狐が出るとのことじゃ
が、暗さあ暗し、提灯はなし。
なんだか薄気味の悪いことじゃ。」

あの弥次さんは、何故遅い

草鞋が切れたか門留めかと
後を見やりつ伸び上がり
睫毛を濡らす後ろより
脅してゆかんと弥次郎兵
思いついたる狐の面
手ぬぐいの端を引き結び
顔へすっぽり引きかむり
差し足抜き足後ろより

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東海道中膝栗毛 赤坂並木の段(2)


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弥「わあああ」

喜「あああ・・もし、もし、もし
御免くださりませ。御免くださりませ。
悪い御狐様とは申しません。
よい御狐様でございます。」

御免下されと言う声は
歯の根も合わず膝ガタガタ
弥次郎兵俄かに作り声

弥「やいやいやいやい、
やんやのやのやい」

喜「はいはいはいはい、はんはろはいのはい」

弥「おのれは憎っくき奴め
今日も籠掻き共の銭を
一本ちゃらめかし
酒肴をおごりしこと
よもや忘れはしまい。」

喜「ああ、もしもしもし
御前様はようご存知でござりまする。
それはほんの出来心。
欲気ではござりませぬ」

弥「やいやいやいやい、まだあるまだある、
しおい川では、座頭の背中に負ぶさって
川を渡り、あまつさえ、座頭の買うた酒
を盗み喰らい、ここな横道者め。」

喜「はあ、もしもしもし
その代わりには、尻が割れて
そ、その勘定は済んでございます。」

弥「やいやいやいやい
ぬかすな、ぬかすな。
まだある、まだある。
日坂の泊まりでは
信濃巫女のばばあのところへ
夜這いに行き。
仏壇の中へ落っこち
その騒ぎを、おのれが連れの
仏のような弥次郎兵に塗りつけ
おのれはぬくぬくと知らぬ顔
重々の不届き者
その代わりに、これを食え。と」

そばにありおう馬の糞
杖にひっかけ差し出だせば

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東海道中膝栗毛 赤坂並木の段(3)


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喜「え、えっ
そ、その糞を、私にかえ」

弥「おい、のう。」

喜「じゃと申して、そりゃまあ・・」

弥「食わねば連れていく。」

喜「はあ・・・もしもしもし
馬の糞はとんと不調法でござります。
どうぞ、その儀ばかりは、
お許しくなされてくださりませ。」

弥「むうーーー、しからば、この後
汝が連れの弥次郎兵が申す事、なんにも
そむきはせぬか。」

喜「はいはいはいはい、なんにもそむきは
しません。」

弥「うーーーそんなら
この荷物を汝が荷物と一緒にいたし
赤坂の泊まりまでかついでいけ。
さあ、さあ早く、早く。」

喜「はいはい」

弥「さあ、何をうずうずするぞいの。と」

荷物を取り上げつくづく見て

喜「はて?この荷物は私が連れの弥次さんの
荷物に、まあよう似たなあ。と」

怖々眺めるなり素振り

喜「よっ、おまえは弥次さんじゃないかい。
てもさても、ひどい目にあわしゃがったな。」

と、言えば弥次郎兵、吹きん出し

弥「ぬはははは、ぬはははは。」

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東海道中膝栗毛 赤坂並木の段(4)


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喜「べらぼうめ、べらぼうめ。
いかに臆病じゃとてあんまりじゃ。
はあ、はあ、はあ
弥次さん、弥次さん
あんまりじゃないかい。
悪い洒落だで。ただでさえ、怖い、
怖いと思っているところへ
思いがけないコンナンテ、
こんじゃ怖いよ。
あさぎにやってくんない。
いやもう、あったら肝を冷やしものに
した。さあさあ、早よう赤阪に行って
泊まろう、泊まろう。
もう、これからは二人連れだ。
怖いものなんか無いぞ。べらぼうめ。
さあ、狐め、出てみやがれ。
俺を誰だと思うやい。
お江戸は神田八丁堀
九尺二間の城郭構え
十二文で汲ます水道の水で
おきゅきゅのきゅうと
磨き上げてた喜太八様だ。
なんにも怖いことはないぞ。
江戸っ子だ。べらぼうめ。べら・・・」

弥「これさ喜太八。剛気に力むとまた
今のような、そのコン」

喜「ああ・・・これこれこれ
ごめんだ、ごめんだ。
いやなんの、怖いと思えば怖し
怖くないと思えば・・・」

弥「どうした喜太八」

喜「いや、ささ、やっぱり恐い
こんなところに長居は無用」

東海道中膝栗毛 赤坂並木の段(5)


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さあさ行こうと両人が
荷物を一緒に差し担い

喜「それ、一足」

弥「二足」

喜「それどっこいしょ」

弥「うんとこしょ」

喜「どっこいしょ」

弥「うんとこしょ」

喜「だっこいしょ」

弥「うんとこしょ」

喜「弥次さん弥次さん
なんだかさっぱり前へ出ねえけんど
どうしたんだろうな。」

弥「うはははは。喜太八これじゃ出ねえはず
だ。向かい同じだよ。」

喜「ああ、そうかそうか。
それじゃ、向きを変えようか。」

弥「おお」

喜「そらどっこいしょ」

弥「うんとこしょ」

喜「どっこいしょ」

弥「うんとこしょ」

喜「どっ、とっとっとっと
弥次さん、弥次さん
だめだよ、だめだよ、だめだよ。
背中同じじゃだめだよ。
さあさ、しっかり担いでおくれよ。
いいかい弥次さん頼むでよ。」

弥「おお」

喜「それどっこいしょ」

弥「うんとこしょ」

喜「どっこいしょ」

弥「うんとこしょ」

喜「どっこいしょ」

弥「うんとこしょ」

喜「はあ、いくべ帰るべ、そりゃそうだんべ
やっぱりヲの字を催促だんべ
どっこいしょ」

弥「うんとこしょ」

喜「まってくれ」

弥「うんとこしょ」

喜「まってくれ、まってくれ、まってくれ
弥次さん、弥次さん。
あの向こうの方に
なんだか白いものが
ちらちらと見えるが
ありゃ、なんであろう。」

弥「ああ、あれかい。
ありゃな。ライトムのチンチョウだよ。」

喜「なに。大黒のちんぼこ?」

弥「そうじゃねえ。ライトムのチンチョウ。」

喜「なに?さっぱりわからねえ。
符丁じゃわからねえ。
平で言ってくんな。」

弥「それじゃ、平で言うが、喜太八。
ビックリするな。
いいかあれはなあ、とむらいのちょ
うちんだよ。」

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